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この空にも月がある
 
 毎日、私は月の場所を確かめます。たとえばそれが新月で、目に見えないのがわかっていても、やっぱり夜空を見上げます。

 どうしてもやりたいことがあって、実家を離れ東京にやってきた頃、ものすごく落ち込んでいた時期がありました。全てがうまくいかなくてじれったいし、都会独特の乾いた感じにはなじめないし、なんだか砂に足をとられながら走っているような気持ちで日々を過ごしていました。実家にいる頃は、心から心配してくれる友人や、甘えられる親や兄弟がいつもそばにいて、自分のやりたいことが自由にできる。そんな環境で生活をしていました。そんな場所から一転して、東京という大都会のなか、今までにない人間関係や生活環境に変わり、身も心もすっかり疲れていたのでした。おそらく、生まれ育った街を離れてなじむことのできない場所で生活することで、自分の居場所を見失っていたんだと思います。それに気づいたのは、ある日ふと見上げた夜空の月を見たときでした。

  私の実家は、山奥で見られるほどではありませんが、少なくとも東京よりは空がきれいで星もよく見えました。私はよく夜空を見上げては、首が痛くなるまで月や星たちを見ていたものです。ところが、上京してからというもの、まったく夜空を見なくなっていました。高い建物に囲まれて、小さく切り取られてしまったような夜空に、月や星を感じることができなくなっていたのです。
  ある日、渋谷の雑踏の中、私はなんの気なしに夜空を見上げました。ビルとビルの間、そこに青白く輝いている満月が見えたのです。私は、人々が足早に行き交う道路の真ん中に立ち尽くしました。そんなことは当たり前のことなんですが「ここにも月がある」と思ったのです。私はここにいる。あの月と同じで、どこにいても私は私なんだ、と気づいたのでした。

今日も私は月の場所を確かめます。そして「うん。明日もがんばるぞー!」と思うのでした。
1999/02/22
 
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