ずっと悩んでいた事をことばにして人に聞いてもらう、それだけでなんだか楽になる事ってよくありますよね。それから、人が話すことばや本に記されていることばがポーンと心に飛び込んできて、もやもやしてたものがスッキリしたり、涙がこぼれたりすることもあります。ことばにはすごく力がある、と私は思うのです。
私が音楽での活動を本格的にはじめた10代のなかば、曲や歌詞を幾つも幾つも作りました。それは今でもずっと続いていますが、あの頃はことばには力があるなんて、ほんの少しも感じていませんでした。曲があって、そこにメロディーがあるからそれを歌うために歌詞を作って・・・という作業。そんな中で、歌詞を作るときにはとくに何も考えずに、自分が思っていることや感じている事を書いていました。作った歌詞を歌った時、つまり自分の体から"思い"をひとつの"形"として出したとき、自分と自分以外の人たちにどんなことが起こるかなんて、少しも考えていなかったのです。
ある日、いつものようにライブが終わって後片付けをしていると、この日はじめてライブを見たというお客さんが話しかけてきました。「歌詞を聞いて泣きました」と言われたのでした。私はびっくりしました。今日はじめて会ったこの人と私の間には、私から生まれたことばがあって、ある瞬間に私たちは共鳴したんだ、と思いました。私はそれから長い時間をかけて、自分の体から"思い"を"ことば"として出すことについて、いろいろ考え続けたのでした。自分のことばを歌う事で、悩みごとがたくさんあった時期にはそれにずいぶん助けられてきたこと、私から生まれたことばを聞いてくれた人たちの中には、それに自分の思いを寄り添わせて、心の中でモヤモヤしていたもの解放する事ができる人がいるということ、また、使い方を間違えれば、人に致命的な心の傷さえつける事ができるものなんだということに気づいていきました。そして、ことばの力の源となるものはそのことばの意味よりも、そのことばが生まれたときに込められたその人の思いだということにも。
ことばには力があります。ことばは人のエネルギーをのせてどこかへ伝え運ぶことができる舟のようなものなのかもしれないですね。誰に対することばでも、自分から生まれることばにはいつでも愛をのせていたいものだ、そう思うのでした。 |