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白役と黒役
私は常々、人は何か役割をもって生まれてくるのではないか、なんていうことを思っています。まるで、映画のキャスティングような感じで、今この人生というお話に、その人に与えられた役目があるんじゃないかと。
先日「<声の呪術>サハ・シャーマンの巫儀 」という公演があり、シベリアで実際に活動している白いシャーマンと黒いシャーマンの儀式を見せてもらうことができました。会場はホールといった感じの場所で、満員になればおそらく500人くらいは入る大きさです。中に入ると、ざわざわとした人々の話し声とその人たちのさまざまなエネルギーが充満していました。会場の前方には、こじんまりとした舞台があり、その中央には儀式で使うらしきいくつかの道具が置いてあります。
儀式は、まず白いシャーマンから始まりました。白いシャーマンは、彼のガイドである真っ白な馬の毛皮で身を包み、ゆっくりと舞台を歩きながら、柔らかい声で天の精霊と語り、その会場にいるもの全てを祝福して、深い微笑みで儀式を終えました。
黒いシャーマンは、彼のガイドであるオオカミをかたどったたくさんの金属片を体につけ、それをジャラジャラと大きな音をたて、荒々しい足音で舞台を歩きながら、おなかのそこから沸きあがる声で地の精霊と語り、大きな音と大きな身振りで舞台を動き回り、会場のすべてのものを受けとめ、子守り歌のような歌をその受け取めたものに向けて歌い、静かに去っていきました。
白いシャーマンは、途中舞台に会場の人たちを上げて、一緒に輪を作り歌いながら、人々とともに喜びを分かち合ったりして、ひとことで言うと"オープン"な感じ。実際に広場など、みんなの前で儀式を行うことがほとんどだそうです。一方、黒いシャーマンは"クローズ"な感じ。人々をよせつけないエネルギーを発しながら、孤独にひたすら儀式を行っていました。普段、彼は大勢の人たちの前に出ることはなく、小さな部屋の中に彼とクライアントと一対一で儀式を行うそうです。
白いシャーマンの儀式の様子はストレートでポジティブでとても良かったのですが、私は黒いシャーマンのひたむきな姿が気になってしかたありませんでした。儀式が終わり、この2人のシャーマンから話を聞くというコーナーになりました。このとき、やはり白いシャーマンは顔を上げ常に"オープン"なのに対し、黒いシャーマンは会場の人々から視線を外して常に"クローズ"なのです。肩を落とし、自分の爪さきの少し先のあたりをじっと見つめています。でも彼は、この企画のホストの方や会場の人々からの質問に対して、とても丁寧に多くのことを話してくれました。その彼の様子は"クローズ"なのに、彼自身は"オープン"なのです。私は、彼がクローズなのは、あくまでもに黒いシャーマンとしての役目を貫いているからなのだ、と感じました。
シャーマンになる人は、親などの後を継いでなる人とそうでない人がいて、その中でも師匠のような存在につく人と一人で学んでいく人がいるそうです。この日出会った黒いシャーマンは、誰かの後を継いだわけでもなく、また師匠というような人についたこともないと言っていました。ただ「遺伝子の記憶が導くまま」に黒いシャーマンになったそうです。自分に与えられた役目に気づき、それを受け入れ、その役目を貫くという彼のひたむきな姿に、私は敬意を抱きながら「私も自分の役目を貫きたい!」と思うのでした。
2001/07/27
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