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愛のオムレツ
 
 先日、仕事先で泊まったとあるホテル。豪華なホテルではありませんが、こじんまりとしてキレイで、スタッフの方々がどなたも気持ちの良い対応をしてくれました。

 そのホテルの朝食はいわゆるバイキング。連休ということもあって家族連れが多く、朝から楽しそうに好きなものをお皿にのせる子供たちの姿が見えます。ふと見ると、壁際のテーブルに若いコックさんがいます。どうもそこでオムレツやスクランブルエッグなど、好きな卵料理をその場で作ってくれているようです。「オムレツって朝っぽくていいなぁ。」私は新しいお皿を持って、卵料理のテーブルへ向かいました。私の前には小学校5年生くらいの女の子が並んでいました。

 そのコックさんは、とっても楽しそうにオムレツを焼いています。ひとつひとつ“愛”をこめながら丁寧に、そして手早く焼いています。もちろんプロのコックさんですから、ふだん家庭でお母さんが焼いているのとはちょっと違う手付きです。私の前に並ぶ女の子は、まるで魔法のように焼き上がっていくオムレツに目が釘付けになっていました。そんな彼女の目の前で、若いコックさんはさらに楽しそうにオムレツを焼きます。私は、その場に居合わせたことがなんだかうれしくて、二人の様子を見守っていました。

 魔法のオムレツが焼き上がりました。若いコックさんは、女の子からお皿を受け取るとリズミカルにオムレツをのせました。女の子は渡されたお皿を両手に持って、大事そうに自分のテーブルへ運んでいきました。さあ、私の番です。やっぱり彼は楽しそうにオムレツを焼いています。私も、そのオムレツが焼きあがるのをワクワクしながら待ちました。そして、とってもおいしそうに焼けたオムレツをお皿にのせると、彼はにっこり笑って私に手渡してくれました。私は彼にお礼を言うと、テーブルにオムレツを運びました。テーブルについた私は、どんなにお腹がいっぱいでもこのオムレツだけは残すまいと思いながら、他のおかずを欲張ってお皿に盛ったことを後悔しつつ、オムレツをたいらげました。

 一日の始まりに、こんなに愛のこもった料理を食べることができたことに感謝しながら、あの若いコックさんがそのままベテランコックさんになることを願ったのでした。
2003/10/13
 
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